写真家
浅田政志
1979年、三重県生まれ。日本写真映像専門学校研究科卒業。
スタジオフォボスを経て、2007年に独立。
国内外で個展、グループ展を精力的に開催。
僕は学生の頃に大津市を訪れたことがあります。しかしなにせ20年近く前の記憶、二度目の大津はスポンジのごとく気持ちをゼロにして撮影に向かいました。市内を車で移動すると、まばゆく光るびわ湖が常に視界に入ります。視界における湖面面積の微妙な違いで自分の所在地を何とはなしに知ることができ、まさに自然のGPS。日本一の湖、わかりきったこととはいえ、その存在感は圧倒的でした。びわ湖は大津市やその界隈の自治体の水源であり、ビワマス、ホンモロコ、イサザなどの琵琶湖八珍と呼ばれる固有の湖魚料理を楽しむことができますが、生活に根差すだけではありません。まず北部の湖水浴場ではサップやウィンドサーフィン、フライボートなどのアクティビティーを透き通った湖水の中で存分に楽しむことができます。そして忘れられないのがびわ湖真珠の美しさ。一度は環境の悪化で途絶えてしまった産業ながら、途絶える前のヴィンテージ真珠と近年の生産者の努力により育った真珠たち。一つ一つ形も色も違う個性的な真珠をびわ湖は生み出すのです。今回、僕は市内17か所で「自撮り”selfie”」をテーマに作品を撮影しました。なぜか被写体が手に持つのは物差し。自撮り棒では実現不可能な撮影距離をあえて自撮りで表現しています。その表現方法について、いきなり口頭で説明されても最初から最後まで意味不明だと思います。しかし現場はあたたかく笑い声が絶えず、惜しみない協力をいただきました。母なる湖に抱かれ生きる大津の人々はおっとりと親切で優しく、その魅力は物差しでは計り知れません。ひとり旅でもみんなと一緒でも、360°フォトジェニックな大津で沢山シャッターをきってほしい。僕の表現にはそんな願いが込められています。